【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》

古都、薬を売る老翁(壷公)がいた。翁は日暮に壺の中に躍り入る。壺の中は天地、日月があり、宮殿・楼閣は荘厳であった・・・・

現代の探検家《田邊優貴子》 =80=

2017-03-22 12:26:06 | 浪漫紀行・漫遊之譜

○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 南極から北極まで旅する鳥 =3/3 = ◇◆

 この地球上の果てから果て、南極から北極まで旅をする鳥がいるなんて…………信じられない、どんな鳥なのだろう。

  それ以来、私はキョクアジサシのことが気になってしかたがなかった。 いま自分が東京で地下鉄に乗り、首都高の下をくぐって、いつもの商店街を自転車で通り過ぎているこの瞬間、キョクアジサシは大海原をヒラヒラと舞いながら南極から北極への旅を続けているのだろう。

 そこに圧倒的な生命の輝きというか、凄まじさ、そして自分が生きているこの地球の果てしなさや限りない広がりのようなものを感じ、体の中をフッと風が突き抜けたような気がした。 キョクアジサシがこんなにも小さな体で大空を飛び、信じられないほどの長距離を旅してこの北極の大地にやって来ている。
 ちょうど3か月前、南極の夏の終わりとともに私は南極から戻って来て、まさに今、北極の夏の始まりとともに、ここにやって来た。 私はこのキョクアジサシにほんの少しだけ自分の姿を重ね、なんだか妙な親近感を覚えていた。 

 一緒に来ていた仲間は相変わらずキョクアジサシに威嚇され続けている。ちょうど抱卵中、もしくはすでにヒナが生まれているのだろう。 だからこの時期、親鳥はかなりナーバスになっているのだ。

 あまり近づきすぎないようになるべく気配を消して、彼がキョクアジサシの攻撃を受けている横を通って行こうとしたそのとき、ふと地面にある岩陰で何かが動いたような気がした。 目を凝らしてみると、岩と岩の隙間、コケの上にふわふわの丸い毛玉のようなものが2つ。 大きさは5cmくらいで、薄い茶色にグレー、黒い斑点、白い腹、ふわふわの体にオレンジがかった赤くて細長いくちばしと脚が付いている。

 なんとそれは、可愛らしくぴったりと体を寄せ合いながら座る、2羽のキョクアジサシのヒナだった。

 自分でもよく気がついたものだと驚いた。 キョクアジサシの攻撃を避けようと少し身をかがめてそこを通ったから偶然目に留まっただけで、普通ならば見過ごしてしまうだろう。


 それにしても、周囲の岩とコケに驚くほどに紛れ込んでいる。 ふわふわで小さな体、黒いつぶらな瞳がとても愛らしい。 だいたい、鳥のヒナというものはあまり鮮やかな色をしていないものだが、彼らのくちばしは赤く鮮やかで、すでに細長いフォルムをしている。図鑑でも見たことがなかった私にでもすぐにキョクアジサシのヒナだとわかるほどに、誕生して間もない、こんなにも小さなころから、彼らはすっかり自分がキョクアジサシであるという雰囲気を醸し出していた。

 彼らは、これから北極の短い夏が終わりを告げるまでの1〜2か月で大きく成長し、きっと地球の果てから果てへの長い長い旅に出かけるのだろう。

 ツンドラの原野の中、まるでその存在を隠すように、ポツンと岩陰に寄り添いたたずんでいるこのかすかな2つの生命は、この風景をより深く、より一層広がりあるものにしていた。

 小屋への帰り道、グースの親子に出会った。 子どもたちはまだ小さいのに、海の上をスイスイと泳いでいる。 順々に海からあがり、みんなで仲良くコケや草をついばみながらゆっくりと原野を歩いていった。 丘を登りながら海をながめると、大きな羽音をさせてケワタガモの群れが飛んでゆくのが見えた。 もうすぐ23時になろうとしているが、辺りはまだまだ明るい。 これからみな巣に帰るのだろうか。

 そのとき、なんだか分からないが不思議な感覚に陥った。 これまで決して訪れたことがない場所で起きている目の前のなんでもない光景。 それなのに、いつだったか、この目の前の光景をどこかで見たような気がした。 その光景は、なぜか私の記憶の中の小さな扉をコンコンと叩いていた。

 しばし立ち止まって考えると、私はハッとして、それが何であるかを思い出した。 それは、子どもの頃に夢中になって見ていたアニメ「ニルスのふしぎな旅」で繰り広げられていたシーンだった。 いたずらをしたために妖精によって小さくされてしまった主人公のニルスが、グースの背中に乗って、その群れと一緒に旅をする。 そのとき画面に映っていたのはたしか、氷河で削られた山々とツンドラの大地、そしてその上空をグースの群れが悠々と飛んでいく……そんな絵だった。

 小屋がある丘の上まで登り切ると、眼下にはさっきまでキョクアジサシとアザラシを見ていた海岸がすべて見渡せた。 山のほうにはいつのまにか低い雲が立ちこめている。
 北極の夏の夜、心地よい風に吹かれながら、ツンドラの原野と山を見ていると、低く鈍い、大きな音をたてて、グースの群れがどこかへ飛んでいった。

 

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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